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第6話 暗君の国

Autor: 日野智貴
last update Data de publicação: 2026-09-25 05:28:36

 三人は町外れの道を進んだ。

 日が傾き始め、空は赤みを帯びていた。道の両側には田畑が広がっている。整然と区画された田は、どこか懐かしい。だが、よく見ると耕されていない場所が多かった。壊れた農具が放置され、畔には雑草が伸びている。

 前田はそれを見て、思わず足を止めた。

「休耕田みたいだ。」

「きゅうこうでん?」

 華麟が聞き返す。

「私のいた世界にも、使われなくなった田んぼがたくさんありました。減反政策と言って、政府が米の生産を減らしたり、農業を続けても生活できなかったりして、田が荒れていくんです。」

 美凰がわずかに目を細めた。

「作物を減らすのか。飢える者がいても?」

「米の値段を維持するため、という理屈でした。」

「馬鹿げている。」

 美凰は短く吐き捨てた。

 華麟は悲しそうに田を見つめた。

「こちらも似ています。尚英様は魔王討伐のためと言って税を重くしました。けれど、実際には宮殿の修繕や軍備にばかり使われて、民の暮らしは苦しくなる一方です。」

「それで泰鳳が反発しているわけですか?」

 前田が言うと、美凰は頷いた。

「理由だけ見れば、泰鳳の方が正しく見えるだろうな。」

「違うんですか?」

「尚英が暗君であることと、泰鳳が正しいことは同じではない。」

 美凰の声には、苦いものが混じっていた。

「大王を代えるということは、総漢国だけの問題では済まない。法皇の権威、帝国の連邦秩序、麒麟と鳳凰の聖別の慣例、そのすべてに波紋が及ぶ。しかも今は魔王がいる。混乱に乗じて動かれれば、誰が止める。」

「魔王は本当にいるんですね。」

 魔王討伐が建前だと言われたばかりだけに、前田は少し意外そうな顔をした。

「いる。」

 美凰は即答した。

「千年前、伯王波旬が異端の教義を唱え、自ら魔王を名乗った。神々は皇身位者より優位であり、仏教より魔法が上であり、魔法による統治を行うべきだとな。帝国の根幹を揺るがす思想だ。」

「皇身位者ってなんですか?」

「法皇の下に天皇・地皇・人皇の三皇、それから皇后に皇太后に――」

「え?この世界にも天皇がいるんですか?」

「いるが、それがどうした?皇后とか親王とか大王とかから祭祀を掌る者を法皇が任命する、それが天皇だ。」

 天皇という名前の地位はあるようだが、日本とはかなり違う。和風の世界なのに政治面では違いが多いようだ。

「まぁ、そのことはいいです。で、その波旬って人が今も?」

「波旬本人は死んだ。だが魔王の位は子孫に継がれた。魔王は今も登仙の力を持ち、多くの成仙を抱えている。強力な魔法を持ち、千年にわたって討てていない。」

「登仙?成仙?」

「人間を仙人に変える儀式を登仙と言い、それによって仙人になった人を成仙という。つまり、登仙の能力を持つ限り魔王は配下の仙人を増やせるわけだ。そのため魔王の勢力は侮れない。」

「だから異世界から素王を召喚するわけですか?」

「名目としてはな。」

 美凰は前田を見た。

「だが、現実には素王召喚は政治に使われてきた。血統に新しい血を入れるため。派閥の均衡を変えるため。魔王討伐は大義名分として便利すぎる。」

 前田は沈黙した。

 異世界に来れば勇者になれる。

 そんな物語なら知っていた。

 だが、現実に召喚された先にあったのは、剣と魔法の冒険ではなく、血統、官職、税、宗教、派閥、正統性だった。

 律令風異世界。

 神を名乗る男の言葉が、今さら重く響いた。

 けれど前田が次に知りたいのは、魔王よりも、隣を歩く美凰のことだった。

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  • 素王召喚   第5話 政治の駒

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